独占禁止法上の事業者集中申告の要点まとめ

  2021年11月20日に国家市場監督管理総局が<阿里巴巴(中国)網絡技術有限公司と騰訊控股有限公司による永楊安風(北京)科技有限公司の持分買収>、<阿里巴巴投資有限公司による高徳軟件控股有限公司の持分買収>、<蘇寧易購集団股份有限公司による南京八天貿易有限公司の持分買収>等、国内の有名企業が事業者集中を法に基づき申告せずに違法に実施した事案に関する行政処罰決定書の公告を公布しました。このことから、国家市場監督管理総局が独占禁止法上の事業者集中に対する審査及び管理の度合いを強化していることがうかがえます。このため、本稿では事業者集中申告の要点をかいつまんでご紹介いたします。

一、事業者集中申告を行う必要のあるプロジェクト

1、事業者集中とは次の状況を指す。 

  (一)事業者が合併すること 

  (二)事業者が持分又は資産を取得する方式により他の事業者に対する支配権を取得すること 

  (三)事業者が契約などの方式により他の事業者に対する支配権を取得すること、又は他の事業者に対し決定的な影響を与えうること

2、 事業者集中の申告基準について、事業者集中に参加する事業者の売上高が法定の基準に達する場合、申告する必要がある。また、関連市場に対し競争を制限するおそれのある事業者集中について、国家市場監督管理総局は調査を行う権限を有する。

1)売上高の基準

  事業者集中が次の基準のいずれかに達する場合、事業者は事前に国家市場監督管理総局に申告しなければならない。 

  (一)集中に参加するすべての事業者の前会計年度の全世界における売上高の合計が100億人民元を超え、かつそのうち少なくとも二つの事業者の前会計年度の中国国内における売上高がいずれも4億人民元を超えること 

  (二) 集中に参加するすべての事業者の前会計年度の中国国内における売上高の合計が20億人民元を超え、かつそのうち少なくとも二つの事業者の前会計年度の中国国内における売上高がいずれも 4億人民元を超えること

2)市場競争に対する影響に基づく申告

  事業者集中が上記の売上高の申告基準に達していないものの、事業者集中が競争を排除、制限する効果を有するとき又は有するおそれがあるとき

二、事業者集中の申告時期及び審査期間

  事業者は事業者集中の前に国家市場監督管理総局独占禁止局に申告しなければならず、申告していない場合、集中を実施してはならない。

  国家市場監督管理総局は申告書類、資料がすべて揃っているかどうかをチェックし、不備がある場合、独占禁止局が資料を補足するよう申告者に書面で通知する。申告書類、資料がすべて揃っている申告について、独占禁止局が立件を申告者に書面で通知する。審査期間は立件の日から最長180日を超えない。

三、関連市場の画定

  関連市場とは、事業者が一定の期間において特定の商品又はサービス(以下商品と総称する)につき競争を行う商品の範囲及び地理的範囲を指す。独占禁止法執行の実務においては、通常、関連商品市場と関連地域市場を画定する必要がある。

1、関連商品市場の画定において考慮する主な要素

  需要代替性の角度から関連商品市場を画定する場合、考慮することのできる要素には、次の各方面が含まれるがこれらに限られない。

  (一)商品の価格又はその他の競争要素の変更により、需要者が他の商品に買い替えた証拠又は他の商品への買い替えを検討した証拠。

  (二)商品の外形、特性、品質及び技術特徴などの全体的な特徴及び用途。商品には特徴において何らかの差異が表れる可能性があるとしても、需要者は商品の同一用途又は類似用途に基づき当該商品を密接な代替品とみなすことができる。

  (三)商品間の価格差。通常の場合、代替性の強い商品は価格が比較的近く、また、価格が変動した時も同じような変動傾向を示す。価格の分析の際には、競争と関係のない要素が価格に変化をもたらす状況を排除しなければならない。

  (四)商品の販売ルート。販売ルートの異なる商品はその対象となる需要者も異なる可能性があり、相互の間で競争関係を構成することは難しく、関連商品となる可能性は小さい。

  (五)その他の重要な要素(例えば、需要者の嗜好又は商品に対する需要者の依存度、大量の需要者が密接な代替品に切り替えることを阻害するおそれのある障害、リスク及びコスト、価格差別が存在するか否かなど)。

供給の角度から関連商品市場を画定する場合、一般的に考慮する要素には、他の事業者が商品の価格などの競争要素の変化に反応を示した証拠、他の事業者の生産工程及び生産加工技術、生産転換の難易度、生産転換に要する時間、生産転換の超過費用及びリスク、生産転換後に提供する商品の市場競争力、並びに販売ルートなどが含まれる。

  関連商品市場の画定時におけるいかなる要素の効果も絶対的なものではなく、事件のさまざまな状況に応じてある要素に重点を置くことができる。

2、関連地域市場の画定において考慮する主な要素

  需要代替性の角度から関連地域市場を画定する場合、考慮することのできる要素には、次の各方面が含まれるがこれらに限られない。

  (一)商品の価格又はその他の競争要素の変更により、需要者が他の地域の商品に買い替えた証拠又は他の地域の商品への買い替えを検討した証拠。

  (二)商品の輸送コスト及び輸送特徴。商品の価格に対し、輸送コストが高いほど、関連地域市場の範囲は小さくなる(例えば、セメントなどの商品)。商品の輸送特徴も商品の販売地域を決定する(例えば、パイプライン輸送が必要な工業用ガスなどの商品)。

  (三)多くの需要者が商品を選択する実際の区域及び主な事業者の商品の販売分布。

  (四)地域間の貿易障壁。これには関税、地方性法規、環境保護要素、技術要素などが含まれる(例えば、商品の価格に対し、関税が高い場合、関連地域市場が一つの区域性市場となる可能性が高くなる)。

  (五)その他の重要な要素(例えば、特定の区域の需要者の嗜好、商品が当該地域に搬入された数量及び当該地域から搬出された数量)。

  供給の角度から関連地域市場を画定する場合、一般的に考慮する要素には、他の地域の事業者が商品の価格などの競争要素の変化に反応を示した証拠、他の地域の事業者による関連商品の供給又は販売の即時性及び実行可能性(例えば、注文を他の地域の事業者に切り替える場合の切り替えコストなど)が含まれる。

四、競争の分析

  主に次のいくつかの方面から事業者集中が関連市場に対し競争を排除、制限する効果を有するか否か又は有する可能性があるか否かを審査する。

  (一)集中に参加する事業者の関連市場における市場シェア及びその市場に対する支配力

  (二)関連市場の市場集中度(一般的には市場集中度指数HHIを参考にする)

  (三)市場参入、技術進歩に対する事業者集中の影響

  (四)消費者及びその他関係する事業者に対する事業者集中の影響

  (五)国民経済の発展に対する事業者集中の影響

  (六)国務院独占禁止法執行機構が考慮すべきと判断する、市場競争に影響を及ぼすその他の要素

五、制限的条件の付加

  事業者集中が関連市場の競争に対し排除・制限する効果を有する場合又は有するおそれがある場合、集中が有する又は有する恐れのある競争を排除、制限する効果を減少させるため、集中に参加する事業者は国家市場監督管理総局に制限的条件付加承諾案を提出することができる。

  国家市場監督管理総局は承諾案の有効性、実行可能性及び適時性につき評価を行い、かつ遅滞なく評価結果を申告者に通知しなければならない。

  国家市場監督管理総局は承諾案が競争に対する集中の不利な影響を減少させるには不十分であると判断した場合、集中に参加する事業者と制限的条件につき協議を行い、合理的な期限内に他の承諾案を提出するよう当該集中に参加する事業者に要求することができる。

  事業者集中取引の具体的な状況に応じて、制限的条件には次のような種類を含めることができる。

  (一)有形資産、知的財産権などの無形資産又は関連権益の分離(以下分離業務という)などの構造的条件

  (二)そのネットワーク又はプラットフォームなどのインフラ設備の開放、基幹技術(特許、ノウハウ又はその他の知的財産権を含む)の許諾、排他的合意の終了などの行為的条件

  (三)構造的条件と行為的条件を組み合わせた総合的条件

分離業務は一般的に、関連市場において有効な競争を行うのに必要なあらゆる要素(有形資産、無形資産、持分、キーマン及び顧客契約又は供給契約などの権益を含む)を有していなければならない。分離対象とすることができるのは集中に参加する事業者の子会社、支分機構又は業務部門である。

六、 審査結果

1、 関連市場に対し競争を排除、制限する影響がない場合、同意する。

2、 競争を排除、制限する効果を有する又は有するおそれのある事業者集中については制限的条件を付加して同意する。

3、競争を排除、制限する効果を有する又は有するおそれのある事業者集中については、集中に参加する事業者が所定の期限内に制限的条件付加承諾案を提出することができない場合、又は提出した承諾案では集中が競争にもたらす不利な影響を有効に減少させることができない場合、国家市場監督管理総局は事業者集中を禁止する決定を行わなければならない。

七、違反した場合の処罰

  事業者が集中を申告せずに実施した場合、国務院独占禁止法執行機構より集中の実施停止、指定期限までの株式又は資産の処分、指定期限までの営業譲渡及びその他必要な措置を講じることによる集中前の状態の回復が命じられ、50万元以下の過料に処することができる。