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知的財産権の侵害をめぐる民事事件において懲罰的賠償が適用された典型事例

情報源:最高人民法院  公布日:2021-03-15 10:47:53

知的財産権の侵害を審理する民事事件における懲罰的賠償の適用に関する最高人民法院の解釈」が3月3日に公布された。「解釈」を正しく理解・適用し、懲罰的賠償制度の正しい実行を保証するため、ここに、「知的財産権の侵害をめぐる民事事件において懲罰的賠償が適用された典型事例」を公表する。

知的財産権の侵害をめぐる民事事件において懲罰的賠償が適用された典型事例

目次

  • 一、広州天賜社等と安徽紐曼社等の間の技術秘密侵害紛争事件[(2019)最高法知民終562号、最高人民法院]
  • 二、鄂爾多斯社と米琪社の間の商標権侵害紛争事件[(2015)京知民初字第1677号、北京知的財産権法院]
  • 三、小米科技社等と中山奔騰社等の間の商標権侵害及び不正競争紛争事件[(2019)蘇民終1316号、江蘇省高級人民法院]
  • 四、五粮液社と徐中華らの間の商標権侵害紛争事件[(2019)浙8601民初1364号、杭州鉄路運輸法院。(2020)浙01民終5872号、浙江省杭州市中級人民法院]
  • 五、アディダス社と阮国強らの間の商標権侵害紛争事件[(2020)浙03民終161号、浙江省温州市中級人民法院]
  • 六、欧普社と華昇社の間の商標権侵害紛争事件[(2019)粤民再147号、広東省高級人民法院]

一、広州天社等と安徽紐曼社等の間の技術秘密侵害紛争事件

【事件の概要】

広州天賜社、九江天賜社は「華某、劉某、安徽紐曼社、呉某、胡某、朱某、彭某が当方の『卡波』の製造プロセスの技術秘密を侵害した」と主張し、広州知的財産権法院に訴訟を提起し、権利侵害差し止め、損失賠償、謝罪を命じる判決を下すよう請求した。広州知的財産権法院は、係争権利侵害行為は係争技術秘密に対する侵害を構成していると認定し、権利侵害の故意及び権利侵害の情状を考慮し、2.5倍の懲罰的賠償を適用した。広州天賜社、九江天賜社及び安徽紐曼社、華某、劉某はいずれも一審判決を不服とし、最高人民法院に上訴した。二審の最高人民法院は「係争権利侵害行為は係争技術秘密に対する侵害を構成するが、一審判決は、権利侵害の賠償額を確定する際に係争技術秘密の貢献度を十分に考慮しておらず、また、懲罰的賠償を確定する際に権利侵害行為者の主観的悪意の程度及び権利侵害を業としていること、権利侵害の規模が大きいこと、継続期間が長いこと、挙証妨害行為の存在など、情状が重大であることを十分に考慮していない」と判断し、一審判決における権利侵害差し止めは維持した上で、上限である5倍で懲罰的賠償を計算・適用し、安徽紐曼社には広州天賜社、九江天賜社の経済的損失3000万元及び合理的支出40万元を賠償するよう命じる判決を下し、華某、劉某、胡某、朱某には上記の賠償額についてそれぞれ500万元、3000万元、100万元、100万元の範囲内で連帯責任を負うよう命じる判決を下した。

【代表的な主旨

この事件は最高人民法院が判決を下した初の知的財産権侵害の懲罰的賠償事件である。この事件の判決は、係争権利侵害者の主観的悪意、権利侵害を業としていること、挙証妨害行為並びに係争権利侵害行為の継続期間、権利侵害の規模等の要素を十分に考慮して懲罰的賠償を適用し、最終的に、法定の懲罰的賠償の最高倍数である五倍という賠償額を確定しており、「知的財産権に対する司法の保護を強化する」という強いサインを明確に伝えている。

二、鄂爾多斯社と米琪社の間の商標権侵害紛争事件

【事件の概要】

鄂爾多斯社は2004年2月14日にの登録商標専用権を取得した。当該商標の使用認定商品は第25類のマフラー、衣服、手袋等の商品である。2015年6月、鄂爾多斯社は、米琪社が天猫サイトにおけるその「米琪服飾専門店」において販売する「羊毛の毛糸」製品に係争商標の顕著な要素、即ち「鄂爾多斯」という中国語の文字が目立つように使用されていることを発見したため、権利侵害訴訟を提起した。北京知的財産権法院は「米琪社が係争権利侵害行為を行って獲得した利益は、権利侵害製品の販売総数、製品単価、製品の合理的利益の三つの積によって確定することができる。鄂爾多斯社の『鄂爾多斯』シリーズ商標は高い知名度を有し、『天猫』モールの製品利益率は高く、係争権利侵害行為の実施により商標権者に与える損害は更に重大なものである。米琪社は『毛糸、マフラー用毛糸、羊毛の毛糸』など衣服と密接に関連する商品の事業者として、係争商標の知名度を知っているはずであるが、同社はその経営するネットショップにおいて、係争商標とほぼ同じマークを目立つように使用しており、また、権利侵害の期間が長く、主観的悪意は明白であり、権利侵害の情状も重大である」と判断し、米琪社が権利侵害により獲得した利益の二倍で賠償額を確定した。

【代表的な主旨

この事件は、懲罰的賠償制度を正しく実行し、悪意による商標権侵害行為を厳しく罰するという人民法院の信念及び決意を十分に示すものである。判決書の道理説明部分では、「主観的悪意」の認定、懲罰的賠償の「基準額」及び「倍数」の確定において考慮すべき要素を十分かつ明確に説明しているため、判決の形成過程が更に透明化され、判決結果が更に説得力を有するものになっている。当該事件の判決後、双方当事者はいずれも上訴せず、良好な社会的効果が得られた。

三、小米科技社等と中山奔社等の間の商標権侵害及び不正競争紛争事件

【事件の概要】

2011年4月、小米科技社は「小米」商標を登録し、使用認定商品は携帯電話、テレビ電話機等であり、その後、立て続けに「智米」など一連の商標を出願・登録した。小米科技社、小米通信社は2010年以降相次いで、業種内における全国的な賞を数多く獲得し、各大手メディアは小米科技社、小米通信社及びその小米携帯電話について継続的かつ幅広く宣伝・報道した。

2011年11月、中山奔騰社は「小米生活」商標の登録を出願し、2015年、商標登録を受けた。使用認定商品は電気炊飯器、給湯器、電気圧力鍋等であった。2018年、「小米生活」登録商標は「不正な手段による登録獲得」を理由に無効審判を受けて無効となった。また、中山奔騰社が登録している90件余りの商標には、小米科技社の「小米」「智米」マークと類似しているものが多数あるばかりではなく、「百事可楽PAPSIPAPNE」「盖楽世」「威猛先生」等の有名ブランドと同一又は類似するものも複数あった。

江蘇省高級人民法院は「ネットショップの商品評価数を、商品取引量を認定する参考根拠とすることができ、係争23店舗の売上額を本件権利侵害による利益獲得額の計算範囲に入れることができる」と判断した。また、「1.二審までの期間中、中山奔騰社等は継続的に係争権利侵害商品を宣伝、販売しており、明白な権利侵害の悪意を有する。2.中山奔騰社等は複数の電子商取引プラットフォーム、数多くの店舗を通じてオンライン販売しており、ウェブページに展示されている権利侵害商品は多種多様であり、数が多く、権利侵害の規模は大きく、その情状も懲罰額を確定する際に考慮する要素としなければならない。3.「小米」商標は著名商標であり、知名度が高く、評判が良く、市場影響力を有する。4.係争権利侵害商品は上海市市場監督管理局に不合格製品と認定されており、一部のユーザーからも、係争権利侵害商品に一定の品質問題があると報告されている。 中山奔騰社等が行っている係争権利侵害行為は小米科技社、小米通信社の良好な評判に損害を与えており、厳しく処罰すべきである」と判断し、権利侵害による獲得利益額を賠償の基準額とし、三倍で賠償額を確定し、小米科技社、小米通信社が主張する5000万元の賠償額を全額支持した。

【代表的な主旨

この判決は、懲罰的賠償の「悪意」、「情状が重大」を認定する要件並びに基準額及び倍数を確定する方法について全面的に分析・説明しており、係争権利侵害商品の販売の特徴について考慮しているだけではなく、懲罰的賠償の倍数に影響する関連要素についても全面的に分析した上で、権利侵害の主観的悪意の程度、情状の悪辣さの程度、権利侵害の結果の重大さの程度に対応する倍数を確定しており、懲罰的賠償制度の適用に対し実践的な見本を提供し、知的財産権の重大な侵害行為を厳しく処罰するという方向性を体現している。

四、五粮液社と徐中らの間の商標権侵害紛争事件

【事件の概要】

五粮液社は商標登録者の許諾を受けて登録商標を独占的に使用しており、徐中華が実質的に管理する店舗は五粮液白酒の模倣商品の販売及び「五粮液」という文字の看板の無断使用により行政処罰を受けたことがあった。また、徐中華らは「五粮液」等の白酒の模倣商品の販売により、登録商標模倣商品を販売した罪に該当し、懲役等の刑罰を下されていた。徐中華らが「五粮液」の模倣商品の販売により行政処罰及び刑事処罰を受けていたため、一審、二審の裁判所は係争権利侵害行為の様式、継続期間等の要素を考慮し、それが基本的に権利侵害を業としていると認定し、二倍の懲罰的賠償責任を負うよう命じる判決を下した。

【代表的な主旨

徐中華は権利侵害により行政処罰を受けた後、再度、同一又は類似の権利侵害行為を行い、その後、さらに人民法院により刑事責任を負うよう判決を下されていた。その上で、一審、二審の裁判所は係争権利侵害行為の継続期間等の要素を十分に考慮し、懲罰的賠償の基準額及び倍数を適切に確定し、「知的財産権の侵害を業としていること」など「情状が重大」な状況を正確に認定し、知的財産権の重大な侵害行為を法に基づき厳しく処罰し、知的財産権者の適法な権益を強力に保護しており、模範的な意味を有する。

五、アディダス社と阮国らの間の商標権侵害紛争事件

【事件の概要】

アディダス社は「adidas」シリーズの商標権を有し、しかも知名度が高い。阮国強らが出資して登記、設立した正邦社は2015年から2017年までに計三回、行政機関からアディダス社の「adidas」シリーズの商標権を侵害する靴アッパー製品を押収され、且つ行政処罰を受けており、権利侵害製品数は累計で17000足余りに達している。アディダス社は民事訴訟を提起し、懲罰的賠償を適用して阮国強らにアディダス社の経済的損失2641695.89元の賠償を命じる判決を下すよう請求した。

浙江省温州市中級人民法院は「正邦社の主観的悪意は極めて明白であり、係争権利侵害行為の継続期間は長く、結果は悪辣であり、情状が重大な事由に該当する」と判断した。同法院は、計算の根拠として正規品の靴の単価189元/一足を採用し、アディダス社が提供した2017年度の会計諸表における50.4%の粗利益率を採用し、且つ、正邦社が三度目に押収された6050足の靴アッパーを販売量として計算し、また、係争権利侵害製品がいずれも靴アッパー製品であって靴の完成品ではなく消費領域に直接には使用不能であることを考慮に入れ、情状を酌量して40%差し引き、最終的に、アディダス社の経済的損失345779.28元の三倍である1037337.84元の賠償額を確定した。

【代表的な主旨

懲罰的賠償の基準額を正確に計算することが、懲罰的賠償制度適用の重要な前提である。二審裁判所は、権利者が最大限尽力して挙げた証拠について安易に否定せず、「優勢な証拠を採用する」という基準を堅持して、懲罰的賠償の基準額を適切に確定しており、また、「請求に基づくという原則」の適用、「情状が重大」の認定においても、模範的な意味を有する。

六、欧普社と昇社の間の商標権侵害紛争事件

【事件の概要】

欧普社は「欧普」という登録商標の権利者であり、使用認定商品は照明、蛍光灯等であり、そのうち登録商標は広東省の著名商標であると何度も認定されており、しかも、2007年に中国の著名商標と認定された。華昇社はその生産する卓上ライト、夜間灯等の照明製品及び関連宣伝ウェブサイトにおいて及び等のマークを使用し、且つ、各大型実体スーパーマーケット及び天猫等のウェブサイトにおいて販売、販売許諾を行っていた。また、華昇社が生産する照明類商品は品質不合格により行政機関に処罰されていた。

欧普社は裁判所に訴訟を提起し、華昇社が権利侵害を構成していることを認定するよう請求し、且つ、懲罰的賠償を適用して、欧普社の経済的損失及び合理的費用300万元を賠償するよう請求した。一審裁判所、二審裁判所はいずれも、華昇社は商標権侵害を構成しないと判断して、欧普社の請求の趣旨を支持しなかった。再審の広東省高級人民法院は「欧普社が保護を請求した商標は、強い識別性を有し、且つ著名の程度に達しており、華昇社が照明類の製品において使用する係争マークは欧普社の係争商標と類似するマークであり、容易に混同を生じるため、商権権侵害を構成すると認定すべきである。華昇社は同業種の事業者として、欧普社及びその商標が高い知名度及び評判を有することを明らかに知っており、また、『欧普特』商標が照明類商品において登録出願を拒絶されていることを明らかに知りながら、故意に『欧普特』商標を別の分類において登録した上で照明類商品に使用して、権利侵害製品を大量に生産、販売し、しかも、製品の品質は不合格であり、欧普社の商標権を侵害するその主観的悪意は明白であり、情状は重大であるため、懲罰的賠償を適用すべきである。」と判断したため、係争商標の使用許諾料、権利侵害行為の継続期間によって賠償基準額を127.75万元と確定した上で、華昇社の主観的悪意の程度及び権利侵害行為の性質、情状及び結果等の要素を総合的に考慮し、賠償額の基準額の三倍で賠償額を確定した。

【代表的な主旨

この事件の再審の判決では、知的財産権の懲罰的賠償の適用における「請求に基づくという原則」「主観的な悪意」及び「情状が重大」のルールの境界線及び証明の基準を明確にし、且つ、賠償額の「基準額」及び「倍数」を細かく計算・確定する方法及び手段を提示しており、法律適用における重要な指導的価値を有する。この事件は「全国裁判所システム2020年度優秀事例分析選定」一等賞、「第四期全国知的財産権優秀裁判文書」二等賞を獲得した。